配当利回りの優等生、J-REITについて、前回はJ-REIT銘柄がどのように分類され、それぞれどういった特徴があるのか、解説していきました。
今回は、J-REIT銘柄を分析する際や、市場動向をウォッチする際に見るべき指標や僕が見ている指標と、その見方について、解説していきたいと思います。
1.見るべき情報源
まずは、今回紹介する指標を僕がどこで見ているか、紹介しておきます。
・JAPAN-REIT.COM
ここではすべてのJ-REITの情報が集約されているため、銘柄比較が大変し易い上に常に最新の情報を仕入れることができますので、僕も毎日確認しています。www.japan-reit.com
・各J-REITのIR情報(決算短信等)
J-REITも普通の上場している株式会社と同様に、四半期ごとにIR情報を公開していて、各社のホームページで見ることができます。今後の方針などはここでしか見られないので自分が投資している銘柄や関心のある銘柄は決算短信や決算説明会の資料を是非チェックしましょう。
2.銘柄分析にあたり見るべき数字
1)分配金利回り
「分配金利回り=1口あたり分配金÷投資口価格」
まずはJ-REITに投資する人の多くが安定した分配金の獲得を目指していると思いますので、格付対比でどの程度配当利回りを出しているのか、配当は増加傾向にあるのか低下傾向にあるのか、見ておくべきだと思います。
2)NAV倍率
「NAV(Net Asset Value)=純資産±物件の含み損益(簿価と時価の差)」
⇒つまり、純資産に物件の時価を反映させたもの
「NAV倍率=投資口価格÷1口あたりNAV」
NAV倍率は株式でいうところのPBR(株価純資産倍率)と同様の意味を持ち、1以上なら割高、1未満なら割安、というように判断されます。
3)FFO倍率
「FFO(Funds From Operation)=当期純利益+減価償却費-物件の売却損益」
⇒つまり、物件から経常的に得られるキャッシュフロー
「FFO倍率=投資口価格÷1口あたりFFO」
FFO倍率は株式でいうところのPER(株価収益率)と同様の意味を持ち、低ければ低いほど割安。
4)LTV
「LTV(Loan To Value)=有利子負債÷総資産総額」
資産に対してどの程度有利子負債を抱えているか、財務の健全性を示す指標。高ければ高いほど借入に対する依存度が高いということになりますが、一方で、資金調達を積極的にしていて、物件の購入を積極的に行おうとしている、つまり成長に重点を置いている可能性もありますので、そのあたりを含めた判断が必要です。一般的な水準としては40%なら安心、50%なら普通、60%なら注意、といったところかと思います。
5)NOI利回り
「NOI(Net Operating Income)=年間賃料収入-諸経費+減価償却費」
つまり、賃貸物件から得られる年間キャッシュフロー
「NOI利回り=NOI÷物件価格」
この際、物件価格は簿価を使っているケースと時価を使っているケースがありますので注意が必要です。時価を使っている場合は「鑑定NOI利回り」と呼んだりします。
J-REITが購入・売却している物件毎のNOI利回りを見ることで、経営戦略にあった物件が買えているか、または経営戦略に合っていない物件を関連会社から押し付けられていないか、などが判断できます。
6)海外投資家の保有率
これは気にしている人は多くない印象ですが、個人的には気にしているポイント。細かい話は割愛しますが、J-REITはインカムゲイン狙いの米国人投資家にとってかなりおいしい投資対象であることから、海外投資家の保有率がかなり高くなっています。よって、仮に大幅な円高になった時に、海外投資家が一斉にJ-REITを手放す可能性があると個人的には捉えているので、海外投資家の保有率がどの程度なのか、気にするようにしています。印象としては、時価総額の大きいJ-REITほど、海外投資家の割合が高いと感じています。例えば、日本ビルファンドは27.1%を外国法人等が保有しています。(2020/6決算時点)
3.市場動向をウォッチするにあたり見るべき指標
まずは、上記1.1)~5)の指標は個別銘柄のものだけでなく、市場全体の指標としても有用なものですので、ウォッチすべきだと思います。その他で、見ておくべき指標としては、以下のとおりです。
1)東証REIT指数
当たり前ですが、東証REIT指数。J-REITは以前の記事でも書いたように、株式よりもボラティリティが高く(値動きが大きく)、株価と相関している時期もあれば逆相関している時期もあったりと、独特の動きをしますので、J-REITの変調に気づくにはJ-REITの指数を見ておく必要があります。
また、市場環境によって、買われるセクター、売られるセクターも異なるので、セクター別の指数も見ておくことをお勧めします。
2)投資家別売買動向
これは、前述の海外投資家の保有率に関わってきます。毎月第8営業日に東証が投資家種別ごとの売買動向を公表していますので、そこで外国人投資家は買い増しているのか、売却に動き始めているのかわかりますので、個人的には要チェック項目です。
以下は東証の公表した7-9月の値をグラフにしたものです。
棒グラフがプラス方向は買い越し、マイナス方向は売り越しです。こうして見ると、J-REIT市場において、海外投資家(濃いグレーの棒グラフ)がいかに大きな存在かがわかると思います。個人的にはドル円が105円くらいだと海外投資家は売りに転じるシナリオもあるかなと思っていたのですが、依然として海外投資家がJ-REIT市場を下支えしている印象です。
3)オフィス賃料の推移
オフィスビルはJ-REIT市場の大部分を占める中心的な存在ですので、オフィス賃料の動向は気にすべきだと思います。賃料が上昇傾向にあるなら、今後も安定した分配金利回りが見込めますし、低下傾向にあるなら、将来、分配金利回りが低下する可能性が高くなってきます。オフィス賃料は三鬼商事が毎月データベースを公開しているので、ここで確認できます。
4)オフィスの空室率
これもオフィス賃料に関連し、これも三鬼商事がデータベースを公開しています。空室率はここ数年、2%未満の史上最低水準で推移していましたが、コロナの影響でやや上昇し、足元では4%弱程度です。空室率が上昇するとオフィス賃料の低下に繋がります。