元銀行員エビエビのエビノート

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【インボイス制度】価格交渉の進め方

インボイス制度の開始を令和5年10月、インボイスの申請期限を令和5年3月に控え、次第に申請を済ませている事業者も増えてきています。

インボイス制度の概要と、影響については以下の記事で書かせて頂いておりますのでご参考にして頂ければと思います。

www.ebi-ebi-note.info

今回は、インボイス制度の開始に伴い、インボイスを発行しない事業者(免税事業者)との価格交渉において、どの程度の値引が妥当なのか、考えていきたいと思います。

1.なぜ価格交渉が必要なのか

なぜインボイス制度が始まると価格交渉が必要になるのか、再度確認したいと思います。

消費税は原則、以下の算式で納税額が決まります。


「売上と共に受け取った消費税」-「仕入等と共に支払った消費税」=「納付する消費税」

但し、インボイス制度が始まると、仕入や経費のお金を支払った際にインボイスをもらわないと、いくら消費税を支払っても上記算式の「仕入等と共に支払った消費税」としてカウントされないことになります。

よって、インボイスを発行できない免税事業者にこれまで通りの金額を支払っていると、消費税分、買手が損をすることになるため、消費税を加味した価格設定をする必要が出てくる、というわけです。

2.買手の感覚と独占禁止法

買手の立場に立つと、「消費税分値引きしてもらえばいいんじゃないの?」と考えたくなります。これまで税込110万円支払っていたなら、消費税分の1万円、負担増になるため、合理性があるように思います。

しかし、公正取引員会は独占禁止法に基づき、Q&Aを出しており、以下の内容が示されています。

”インボイス制度の実施を契機として、売上先から取引条件の見直しについて相談があった場合は、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担していることを踏まえつつ、以上の点も念頭に置いて、売上先と交渉をするなど対応をご検討ください。”

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A:公正取引委員会

これがどういうことか、例で考えてみると、免税事業者Aは課税事業者Bに対して110万円(税込)の商品を販売しています。インボイス制度の開始に伴い、このままでは課税事業者Bは10万円の消費税が計算上差し引くことができず、10万円の負担増になってしまうため、10万円の値引を免税事業者Aに対して要求します。

もし、免税事業者Bが110万円の商品を販売するために、55万円(税込)の仕入を行っている場合、10万円値引きしてしまうと、仕入時に支払っている消費税5万円も負担することになってしまうため、これはある種、「行き過ぎた値引」になるということです。

一方で、価格交渉がしっかり行われ、両者合意の上であれば、独占禁止法には抵触しない旨も記載されています。つまり、上記のような値引を強要すると、独占禁止法に抵触する可能性が高い、ということで、結局のところ、どの程度の値引を落としどころにすればいいのか、結論は示されていません。

3.価格交渉の落としどころ

いくら価格交渉をしっかりして両者合意がされていれば問題ないとはいえ、価格交渉を円滑円満に進めるためには、ある程度の落としどころは必要になると思いますので、このあたりについて考えてみます。

1)支払相手の原価率

公正取引委員会のQ&Aに倣うとすれば、支払相手がどの程度消費税を支払っているか、把握する必要があります。

上記の例で言えば、110万円の売上に対応する仕入を55万円行っているため、5万円の値引が妥当ということになります。

しかし、相手先の原価率など、知ることは不可能かと思います。

そこで、簡易課税制度におけるみなし仕入率が一つ、参考になるかと思います。

2)簡易課税のみなし仕入率を参考にする

簡易課税とは、消費税の納税額の算出式における、「仕入と共に支払った消費税」を”みなし仕入率”を用いて概算で求める制度です。


「売上と共に受け取った消費税」-「仕入等と共に支払った消費税」=「納付する消費税」

具体的には、売上が110万円の場合、「売上と共に受け取った消費税」は10万円。

この時、「仕入と共に支払った消費税」は業種が小売業であれば、みなし仕入率は80%ですので、仕入は88万円行っているとみなせるので、値引は2万円以内にする必要があるということになります。

※国税庁HPより
3)経過措置期間にも留意

上記においては、考え方を簡単にするため、インボイスの発行が無ければ、支払った消費税が全額、消費税の計算上差し引けないという前提で書いておりますが、実際には、インボイス制度には経過措置が設けられており、当初3年は80%、その後3年は50%分については、差し引くことができることになっておりますので、この点についても、考慮したうえで価格交渉をすべきだと思います。

※国税庁資料より

4.その他

また、太陽光発電の固定価格買取制度において、太陽光発電により発電した電気を東京電力等に売電している免税事業者もたくさんいますので、値下をしないと、東京電力等の負担が増えてしまうことになります。

そこで、資源エネルギー庁の資料によると、免税事業者と課税事業者で、買取単価に差を付ける案が検討されているようです。

もし、そうなれば、その差額が値引額ということになるため、一つ参考になるかと思い、個人的には動向を気にしています。

◆まとめ◆

✔免税事業者との取引には価格交渉が必要

✔免税事業者が負担している消費税にも考慮しないと独占禁止法に抵触する可能性

✔免税事業者の負担している消費税の算定には簡易課税制度における”みなし仕入率”が参考に

✔経過措置にも留意

✔結局は、しっかり交渉がされ、両者合意していればOK