元銀行員エビエビのエビノート

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映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」から投資について考える

最近、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」を再視聴しました。映画としても面白いですが、改めて観てみると、投資に関して学ぶこともたくさんありましたので、最近話題のCLO問題も絡めて書いていきたいと思います。

1.映画概要

2016年に公開されたアメリカ映画。日本で言うところのリーマン・ショックの発端となったサブプライム・ローン問題を事前に察知した人々の一世一代の勝負を描いています。クリスチャン・ベールやブラッド・ピッドなど、キャストが中々に豪華です。

2.サブプライムローン問題とは

1)サブプライムローンとは

信用力の低い個人を対象とした高金利の住宅ローン。米国で住宅ブームを背景に各社がこぞって融資し、融資残高は住宅ローン全体の1割を占める規模にまでなっていました。

住宅ブームが続いている内は担保となっている住宅の価値が上昇していくため、返済期日前に借り換えを繰り返し、債務不履行に陥るケースは少なかったようですが、住宅価格の高騰が止まると、債務不履行に陥るケースが増加しました。

2)サブプライムローン問題の概要

上記の様に、サブプライムローンの債務不履行が増加しただけでは大きな問題にはならなかったかもしれませんが、証券会社が複数のサブプライムローンを詰め合わせにして証券化したもの(RMBS又はモーゲージ)を作っており、モーゲージをさらに証券化したものが世界中の金融機関や投資家に販売されていたために、サブプライムローンの債務不履行が世界中に影響を拡大させる結果となりました。

3)サブプライムローン問題の原因

サブプライムローンを証券化したモーゲージは高格付なものばかりでした。しかし、映画の中で実際に住宅市場を見に行くと、住んでいる人がほとんどいなかったり、売却を考えている人がたくさんいることがわかり、格付が実態を反映していないことが明らかになっていきます。さらに突き詰めていくと、サブプライムローンの審査がざるであることに加えて、格付会社の審査もまともに行われていないことが明らかになっていきます。格付を取得する側は高格付けを付けてもらいたいと考えるため、格付け会社は高格付けを与えてあげないと別の格付け会社に顧客を取られることになってしまうというジレンマが発生していたのです。「高格付を売っているだけだ」と映画の中でも言われてしまいます。

この様に、融資機関や格付会社の審査が機能していないことにより、利害関係者は正しい判断ができず、住宅ローンバブルに気づくことができず、大きな被害を被ることになりました。

3.CLO問題について

ここで、最近話題になっているCLO問題について触れておきたいと思います。

1)CLOとは

Collateralized Loan Obligationの略称で和訳はローン担保証券。金融機関が低格付け企業に対して融資している貸付債権(バンクローン又はレバレッジドローン)を詰め合わせにして証券化したもの。つまりはサブプライムローンの企業融資バージョンと言えます。

2)CLO問題とは

日本の一部の金融機関がこのCLOをかなりの規模で保有しており、サブプライムローン問題と同じようなことが起きるのでは、と危険視されており、金融庁はこれ以上保有しないよう、金融機関を牽制しています。他にもYoutuberやブログでも、CLO危険論を提唱している方が多く見受けられます。

4.モーゲージ=CLO?

では本当にモーゲージとCLOは同じような危険を孕んでいるのか、考えていきたいと思います。

1)モーゲージとCLOの共通点

両者の共通点としては「ローンを証券化した商品である」ということです。証券化の仕組みは以下のとおり。

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この仕組みによって、金融機関は資産を即時に現金化し、財務バランスを改善できるとともに、投資家はローンの返済・金利の支払を原資とした安定したインカム・ゲインを得ることができるようになります。

2)モーゲージとCLOの違い

①元になっている債券

モーゲージは前述のとおり、信用力の低い個人に対する住宅ローンが裏付けになっているのに対し、CLOは低格付け企業に対するローンが裏付けとなっており、そもそもの資産は全くの別物です。

②証券化する際の構造

CLOは元々は低格付け企業に対するローンですが、CLO自体の格付けは高格付けになっています。これはモーゲージの様に金融機関や格付機関の審査がざるになっているからではなく、構造上、高格付けになる仕組みがあるからです。

具体的には、複数のバンクローンを詰め合わせにする際に、レバレッジドローンを優先弁済順に分けて1つの証券を生成しています。これによって、投資家が好みのリスクリターンの商品に投資することができるようになっています。図で示すと次のとおり。

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③担保価値

CLOの元になっているバンクローンの担保は多くの場合、債務者である低格付企業の「全資産」であることが主流です。これにより、バンクローンは担保によってフル保全(担保価値>ローン残高)であることが多いです。そのため、仮に企業がチャプター11に陥っても、ある程度元本保証は期待できます。

3)米国における低格付けの意味

さらに、米国における企業の格付けは日本とは少し意味合いが違います。日本では低格付け=ハイリスクというイメージですが、米国においては情報の公開を避けるためにあえて上場していなかったり、経営戦略を外部に漏らさないために格付けを取らなかったり、戦略的に低格付けを選択しているケースが多くあります。結果、パソコンのDELLやバーガーキングなど、低格付けであっても業績優良な企業が多くあります。

5.CLOはホントに危険?

上記のような特徴を踏まえると、CLOが一概に危険であるというのは、早合点だと個人的には思います。金融庁はともかく、こうした情報を発信している人の中には、上記のようなCLOの特性を理解せずに主張している方も多く見受けられますし、この低金利時代にじゃあ何に投資すればいいのか、代替案もありません。金融機関も生き残りをかけて取れるリスクを取っているのであって、頭ごなしに否定するものではないと個人的には思います。

ただ、一方で、国内の金融機関はCLOの元になっているバンクローンそのものもかなり保有しています。それどころか、個人向けに販売を行っているところもあります。バンクローンは高利回りであることから、低金利時代を背景にインカムゲイン狙いで各金融機関はこぞって保有していますが、時価が下がっており、含み損を抱えていることも事実です。

CLOがやり玉に挙げられている一方で、その元になっているバンクローンについてはあまり語られないことを考えると、市場に出回っている情報だけに惑わされずに、自分の物差しで情報を分析し、判断することが重要だなと改めて感じました。そうした意識があるからこそ、マネー・ショートの登場人物も、住宅ローンバブルの崩壊にいち早く気づくことができたわけです。特に最近ではいろんな方が様々な媒体で情報発信することができるので、この重要性はさらに高まっていると思います。

◆まとめ◆

✔映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」は投資家にとって良き教材

✔一部で危険視されているCLOはモーゲージとは似て非なるもの

✔市場に出回っている情報を鵜呑みにせず、自分の物差しで理解し、行動することが投資家にとっては肝要

今週のお題「最近見た映画」